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なかにし礼「兄弟」小説本を読んだ感想

森田童子が好きで、ドラマ「高校教師」で知ってからずっと聴いてます。

そんなこともあり、
作詞家・小説家「なかにし礼」氏の本「血の歌」を読みまして、
その流れもあって小説「兄弟」も読みました。


「血の歌」を読んですぐアマゾンで「兄弟」もオーダーしました。
2日で到着。
かなりのボリュームながら、2日にかけてほぼ一気読みです。

参照:森田童子となかにし礼の関係と「血の歌」本の感想
(森田童子はずっと経歴不詳だったので、出生と背景が知れるのはリスナーには大きいです。)


なかにし礼「兄弟」の小説は、
平成10年(西暦1998年)が第一刷ですでに24年前。

昭和生まれじゃないと響かない内容ですが、個人的な感想を残しておきます。
森田童子好きとして…

小説「兄弟」のあらすじ

2020年12月23日に82歳で亡くなった作詞家「なかにし礼」氏が、
自身の兄の無謀な事業からの倒産・借金に振り回される様子を描いた内容。

戦時中に著者が満州で生まれて、
そこからソ連軍が侵攻してきて逃亡していくから、
満州ハルビンからの日本への帰国(引揚げ)の過酷さ。

更には、
北海道小樽に落ち着いたところから、
兄が同居しだしてニシン漁の権利を家を担保に巨額で買って失敗。

ニシン漁
ニシン漁は群来(くき)ると、網に大漁になって凄い儲かったそう。

一度はニシンが網にかかるも、欲張って本州に運ぼうとして兄は失敗。
(ニシン漁の時の描写は、トレーダー心理に通じるものを感じた。)

借金残って小樽の祖母の家を失い、
東京に逃亡していく様子など、
悲惨としか言いようがない状況が描かれる。

特に、
著者と著者の姉が15歳、8歳の二人で、
小樽から東京に向かう過酷な旅の様子が泣けた。

最低限のお金しかおばば(祖母)にもらえなかったので、
食事もできるだけとらず、
日本海を渡る船は大時化で大揺れ続け、
兄弟揃ってオンボロ船の船底で5日間吐き続ける描写が。
(大人もみんな吐き続けたという描写)

過酷すぎる。

浮浪児のようなボロボロな身なりになったが、
東京の母親と合流できたのは救いだったが。

更には挙句の果てに、
兄が著者を保証人にして借金しまくって会社も潰しまくってメチャメチャ。

とにかく借金、

とにかく凄いムチャクチャな話だが、殆ど実話のようだ。

昭和の頃の話として、なんとも色々思い出したし…

僕の父親も満州で生まれた。そこが本の内容と同じで興味深い。
(ただ父は当時1歳くらいで、当時の記憶がないようだが。)

著者「なかにし礼」氏と同様に、
命からがら母・兄弟に抱かれて引揚げ帰国した話を叔母さんにサラッと聞いた。
(祖父とその兄弟は、シベリア抑留された。その後、数年後に帰国できたが。)

そういった自分の父と家族の話と重なるようにして、満州からの引揚げ話が読めた。

そして、
著者の兄は、とにかく金と女に滅茶苦茶。

そして自己承認欲求がメチャメチャ強いのか、事業やりまくって必ず失敗。
倒産しても借金を重ね続けてまた倒産させる。

懲りなさが凄すぎる。

そして、
弟である著者「なかにし礼」氏も、
懲りずに借金の尻ぬぐいをし続けるところがなんとも昭和感ある。

僕が子供の昭和の頃、
令和の今よりもはるかに家族の結びつきは強かったと思う。

兄弟の借金を尻ぬぐいするのも、確かに空気感としては懐かしいものを感じた。

が、それにしても… 凄すぎる話だ。

昭和のあの頃は、今よりもずっと男の見栄と虚勢、こだわりが強い時代だった。
令和の今だと、時代が完全に変わったなぁと思うわけだ。

そういうのも改めて感じる本だった。

僕も近くの家族の凋落を目撃した…

著者なかにし礼氏は、僕の父親よりも幾つか年上だ。

僕の親の世代の話として懐かしくも感慨深く読んだ。

両親世代の周りを見渡すと、確かに似たような状況を見た気がする。
(西日本の過疎地の子供ながら、色々まわりの家族の凋落も見えた。)

以下、僕の子供の頃周囲にあった話です。

  • 親戚Yおじさんの剛腕ぶり
  • 一代で地元で建設会社興して伸し上がった剛腕Yおじさんは、確かに昭和の空気感を感じた。
    「兄弟」に出てくる兄のような暴君のような空気も感じたもんだ。
    Yおじさんはうまくいったが。

  • ご近所Sさんちの一家心中話
  • ご近所のSさんちは、複数の家族ぐるみで飲み会があった。
    保証人になって借金を背負って、一家心中に車で出た話を聞いた。
    (僕の保育園の一個上にいた)子供の弟が死にたくないと言ったので思いとどまったそうだ。

  • ご近所の家が会社倒産して家を手放し…
  • 建設会社をやられていたが、倒産して借金になって家を手放して引っ越していかれた。
    (競売にかけると家の買取価格下がるからと、うちの父がその家を買った。それは近所で2度あった。)

  • などなど…
  • 近所の幼馴染が、持ち家を離れていくのはなんとも儚い気分になった。
    (子供心に自分の家が急に貧乏になるのは、惨めだっただろう。)

    ご近所の借金を少しでも軽くと、家を買い取るのはうちの父。複雑な思いで見ていた。
    今思えば、あんな田舎で目立つことしなくてもよかったな、とは感じる。
    その当時の事情も大いにあったであろうけども。
    (田舎なこともあり、借家住まいが貧乏の象徴とされていた風を感じたもんだ。)

僕が子供の頃は、貧富の差がけっこうハッキリ見えた。

もちろん令和の今も貧富の差はあるだろうけども、
凋落のコントラストがハッキリと僕にはキツク見えた。
(母親は深刻な口調ながら、幼い僕にディープな話を聞かせてくれた。)

小説「兄弟」の内容は、激しすぎるがそう遠くも感じない気もした。

著者「なかにし礼」氏がなんだかんだで成功されたのが救いだな。

なかにし礼 家族写真 晩年
なかにし礼氏の晩年の家族写真。
苦難を乗り越えた人生の果てで、充実を手にされた様子が伺える。

わが人生に悔いなし

なかにし礼氏の「わが人生に悔いなし」も図書館で借りてきて読んだ。
なかにし礼 わが人生に悔いなし
こちらは内容的には「兄弟」から抜粋された部分もあった。

著者と家族の写真が掲載されているのが興味深い。

兄に滅茶苦茶されても、
なんとか自身が作詞や小説でうまくいったんで、
それで「わが人生に悔いなし」と言えるかなぁ、と。

自分以外の借金返済に追われて、
苦しんだまま晩年だと厳しいもんなぁ…

中西正一
なかにし礼氏と兄・中西正一氏の若かりし頃。
この頃の兄の姿が、著者の脳裏に焼き付いていたとのこと。

著者の兄「中西正一」は、森田童子の父親ということである。

森田童子の父の話として…

著者の兄「中西正一」は、借金し続ける人生で亡くなられて、
死後も借金が2億以上あって家族は遺産相続破棄の手続きをしたそうな。

スゲーな。

そんな父親だからこそ、
森田童子があんなディープな歌を作ってリアリティが凄かったんだろうな。

小説「兄弟」は、
「血の歌」の森田童子エピソードありきで読んだんで、
かなり深読みできてよかったです。

そんな感じで。

コメント

  1. 子供の頃に生死をさまよう体験したり、
    ド貧乏すぎたり、
    食うや食わずの生活をしていた描写は、
    素直に切ない。

    戦後すぐの時代とはいえ、やはり子供の貧困は避けないといけない。
    (戦後孤児もたくさんいた時期だし、著者も下手したら中国残留孤児だったわけだが)

    それがずっと大人になっても失敗と貧困を繰り返してたら、家族の子供も大きな影響を受ける。

    自分も反面教師にしていきたいと強く思った。